レポート

アナリストレポート第2回
「MLBのデータ分析」

2018年07月24日 野球

野球アナリスト:金沢慧

 

メジャーリーグベースボール(MLB)では、データを活用したチーム強化が進んでいます。収集されたデータはチームの強化だけでなく、報道でも盛んに活用されています。

NHK BS1で放送されている「ワールドスポーツMLB」のデータ分析担当として、私は今年の2月末~3月末にかけての約1ヶ月間、アリゾナで行われたMLBのスプリング・トレーニングでの取材に同行しました。

 

サボテン(フェニックス市の郊外に自生するサボテン)

 

アリゾナはいたるところにサボテンが自生する乾燥気候です。毎年、この場所で行われるスプリング・トレーニングとは、端的には「キャンプ」+「オープン戦」です。日本のプロ野球ではキャンプは主に沖縄や宮崎で行われ、その後、全国各地でオープン戦が始まりますが、MLBは異なります。15チームずつアリゾナとフロリダに分かれ、シーズン開幕直前まで同じ場所で調整を行っています。

 

テンピ・ディアブロスタジアム(エンゼルスがメイン球場とする「テンピ・ディアブロスタジアム」)

 

こちらはロサンゼルス・エンゼルスが使うメイン球場です。今年から大谷翔平がエンゼルスに移籍したこともあり、私も含めて日本の報道陣が数多く訪れていました。

 

アリゾナに集う15チームは10球場を使ってオープン戦を行います。これらの球場はレギュラーシーズンで使う球場ではありませんが、エンゼルスの球場を含めて、そのうち9球場でドップラー効果を用いたレーダーシステム「TrackMan(トラックマン)」の設置が確認できました。また、持ち運びが可能な投球解析システム「Rapsodo(ラプソード)」も複数球団が使用しており、日々のトレーニングでもデータが活用されていることを実感しました。

 

ohtani※Baseball Savant (https://baseballsavant.mlb.com/)から引用
(打者・大谷の対左右投手別打球速度、打球角度を可視化したもので、左の図が対左投手、右の図が対右投手)

 

MLBは30球団ありますが、その全球場で「TrackMan」と、画像解析のシステム「TRACAB(トラキャブ)」を導入し、投球の軌道や選手の軌跡をデータ化しています。この2つのデータ収集システムを元に、MLBが独自に開発したデータ解析ツールを「Statcast(スタットキャスト)」と呼びます。

 

上の図は、打者・大谷が打球を放った瞬間の「打球速度」と「打球角度」を表しています。これもStatcastで解析したデータで、MLBの公式サイトであるBaseball Savant(ベースボール・サーヴァント)で公表されています。

 

図中の赤いゾーンは「バレルゾーン」と呼ばれ、本塁打になりやすい打球速度、打球角度を示しています。大谷のバレルゾーンを見ると、対右投手は赤いゾーンに点がありますが、対左投手ではほぼないことが分かります。対左投手に苦しんでいることがよく分かるデータです。

 

SABR Analytics Conferenceフェニックス市のホテル「ハイアット リージェンシー」で開かれたSABR Analytics Conferenceの様子)

 

詳細なデータは収集されただけでは意味がなく、活用されて初めて価値が出ます。データを活用して価値を生み出すためには様々なハードルがあると言われますが、データの収集が進んでいる組織に欠かせないことは「最新の知見を研究し共有すること」「優秀な人材を発掘し育成すること」でしょう。

 

そのような課題を解決する一歩として、3月9日~11日の3日間、アリゾナ州のフェニックスで「SABR Analytics Conference(セイバー・アナリティクス・カンファレンス)」が行われました。今年で7回目となるこのカンファレンスは人材交流や研究成果の発表の場として開かれており、Statcastの開発元でMLBのオンラインビジネスを担うMLBアドバンスドメディア(MLBAM)や、球団の関係者も数多く参加していました。日本からの参加者は我々取材班を含めて10人弱だったと思います。

 

そこに登壇していた専門家はセイバーメトリシャン(野球の試合データを統計学的に分析するセイバーメトリクスの専門家)やコーチだけでなく、バイオメカニクスの専門家、スポーツ心理学者、スポーツ生理学者など、多岐にわたっていました。他に、座談会では脳科学の話題が出るなど、チームを強くするためには様々な専門領域を融合させることが大事になっています。

 

SABR Analytics Conferenceの懇親会(フェニックス市のホテル「ハイアット リージェンシー」で開かれたSABR Analytics Conferenceの懇親会の様子)

 

また、このカンファレンスでは学生のコンペティションも開かれており、懇親会では学生と球団関係者がインターンの話をする場面も見られていました。きっと、この場をきっかけに、アナリストとして球団に入っていく若者がいたことでしょう。MLBではデータを収集するだけでなく、活用するために人材を育成し、情報を共有していくサイクルが作られつつあります。

 

データの活用が進み始めている日本のプロ野球界でも、今後はSABR Analytics Conferenceのような場が必要になってくると思われます。データスタジアムのアナリストはそこでどのような役割を果たせるのか。より広範囲にわたる深いデータが収集できる状況下で、まずは我々が自分自身の専門性を磨き、情報を発信し続けることが重要と再認識させられる、貴重な1ヶ月でした。

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