レポート

アナリストレポート第18回
「球種分類の裏事情」

2020年04月02日 野球

野球アナリスト: 佐藤 優太

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、NPBは3月20日を予定していたシーズン開幕を2度繰り下げ、現在は4月24日の開幕を目指しています。東京五輪の延期で日程には余裕ができましたが、今後、さらに開幕がずれ込む事態になれば、試合の削減も現実味を帯びてくるでしょう。アナリストの立場としても、試合が行われないことには分析のしようがありませんから、早期の終息を願うばかりです。

 前代未聞の状況だけに、選手は難しい調整を強いられていることでしょう。一方で、図らずも開幕前の調整期間が大幅に伸びたことを前向きに捉え、新球種の習得や精度向上に充てる投手も少なくないようです。もしかすると、今季は持ち球を増やしてシーズンに臨む投手が、例年以上に多くなるかもしれません。このレポートでは、そんな球種にまつわる話を紹介したいと思います。

投手の呼び方か実際の変化か

 まず前提として、データスタジアムでは「本人がその球を何と呼んでいるか」に基づく、「呼称重視」で球種名を決めています。そのため、新聞や雑誌、テレビ番組、ウェブサイト、SNSなど、常にアンテナを張り巡らせて、球種情報の収集に努めています。

 「呼称重視」は「データ上はシンカーだけど本人はツーシームと呼んでいる」といった“翻訳”の手間がなく、何より分類の根拠が明確です。対して、「その球がどんな変化をしたか」という、「軌道重視」の考え方もあります。「軌道重視」は情報収集の必要がなく、いわゆる「亜大ツーシーム」のような“らしからぬ”ボールは、より実態に近いシンカー等に分類できる利点があります。

 もちろん、球種名は無秩序に付いてはいませんから、ほとんどのボールはどちらのアプローチでも同じ分類になるでしょう。それぞれ一長一短がありますが、「呼称重視」だと、時に以下のような悩ましい出来事に直面します。

投げ分けている以上は原則分ける

 ひとつは、「別球種だが判別が困難」なパターンです。ストレートとシュートに代表される、球速や指の開きにほとんど差がない球種は、熟練者でも正確な見極めが不可能なことがあります。この場合、例外的に「軌道重視」で、球種Aも投げているがデータ上は球種Bに一本化してしまう、という形で折り合いをつけるケースもあります。

 ただ、近年はボールの縫い目が視認できるほど映像の画質が上がったため、このような措置を取ることはかなりまれになりました。2020年3月現在の主だった例では、判別が不可能だった時代とデータの整合性を取るために、ディクソン投手のツーシームをストレートに合算している程度です。大野雄大投手のツーシームとフォークのような非常に酷似したボールでも、判別が困難であれ不可能ではないのなら、打者の左右や捕手の構え、ボールカウントなど、あらゆる要素を加味して見極めています。

投手の考えが変わることも

 もうひとつは、「投手自身が呼び方を変える」パターンです。代表的な事例では、今永昇太投手のカットボールが挙げられます。もともと、今永投手は120キロ台後半と135キロ前後の曲がり球を2017年から投げ分けていましたが、昨年6月のインタビューで「球速の違いはあるけど、僕のなかでは全部同じスライダー」と語っていたこともあり(※1)、スライダーが2種類あるという扱いにしていました。

 しかし、プレミア12でカットボールを前面に出した報道が各紙をにぎわせたことで、状況が変わります(※2)。上記のインタビューを踏まえれば、「シーズン途中からカットボールを投げ始めた」というのが自然な解釈ですが、そうすると6月以前に投げていた135キロ前後のスライダーもカットボールにせざるを得なくなり、整合性が取れなくなったのです。

 結局、インタビューの発言は無視する形で、135キロ前後のスライダーは全てカットボールに修正しました。そして、今年3月に今永投手のコラムで「カットに関しては昨年の開幕から投げていました」との記述があったことで(※3)、結果的にこの分類が正しかったと証明されました。恐らくは、昨季の途中に曲がり球の呼び方を変えたのだと思われます。

重要だからこそ正確に分けたい

 このようなケースはほんの一握りですが、私たちの認識と異なる報道が世に出た場合、過去の談話を洗い出し、握りや軌道を精査して真相を推理していきます。その全てがピタリとははまらず、どうしてもつじつまが合わない場合は、臨機応変に、最も矛盾の少ない落とし所を模索します。データスタジアムが保有する球種データは、このようにして日頃からメンテナンスを行っています。

 アナリストの視点で言うと、例えば投球のコースや打球の方向は、「たまたまちょうどいい高さにボールが行った」とか、「結果的に逆方向へ飛んだ」にすぎない可能性もあります。しかし、球種には偶然がありません。「その球種を投げた」ということは、100%「その球種を投げようとしていた」のです。投手の意図や狙いを正確にくむためにも、球種名にはこだわりを持って(一方でとらわれずに)、データを取得しています。

参考:ガラパゴス化が進む日本球界のツーシーム – Baseball LAB

(※2)侍今永カット多投で3回0封「左の1番手」稲葉監督 – 日刊スポーツ

(※1)人生初の大スランプにおさらば。今永昇太は複数の新感覚をつかんだ – web Sportiva

(※3)今永昇太コラム「昨年2ケタ勝っただけでエースと呼ばれるにはまだ早い。この1年で誰もが納得できる数字を残したい」 – 週刊ベースボールONLINE

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