レポート

アナリストレポート第29回
「野球を相性の観点から深堀する」

2021年06月25日 野球

■相性とは?

 データスタジアム株式会社ベースボール事業部の河野岳志です。「この打者は、○○投手からはよくヒットを打つが、××投手からは全くヒットが打てない」といったことを思ったことはないでしょうか?

 このように、野球ではこの打者はこの投手に対して相性が良い、といったことがよく言われます。表1は2018年から2020年の打者、投手の直接対決の成績を集計し、打率の高い順に並び変えたものです。これを見ると、吉田正尚(オリックス)は千賀滉大(ソフトバンク)から、41打数19安打、打率.463、本塁打4本とかなり好成績を残しており、相性の良さがうかがえます。

 また、表2のように打率の低い順に並び変えると、福田永将(中日)は菅野智之(巨人)からは30打数1安打、打率.033とかなり苦手にしていることが分かります。

 このように、一般的に打者、投手の相性の良し悪しを判断する際には、直接対決の安打数、打率、本塁打数といったデータを使用することが多いと思います。しかしながら、このような方法には問題点があります。それは、対戦数が少ない場合、サンプルサイズの問題で数値の信頼性が落ちてしまうことです。

 例えば、ある打者と投手の対戦成績が3打数3安打の場合、打率は10割ですが、打数が少なく、必ずしもその打者がその投手を得意としているとは言い切れません。つまり、この方法は試合の出場数が多く、さまざまな打者・投手と対戦している選手に限られてしまいます。

■選手のタイプ分類

 そこで、今回は直接の対戦成績ではなく、打者、投手、それぞれをタイプ分けして、そのタイプごとの対戦成績を集計することで、相性の良し悪しを判断していきたいと思います。タイプ分けをすることのメリットとしては、今までは打者、投手の一つの組み合わせだけでデータを集計していましたが、タイプ分けをすることによって、似たタイプの選手のデータを合わせて集計できるため、より多くのサンプルを確保することができます。つまり、直接の対戦はなかったとしても、その選手のタイプが分かれば、対戦する相手選手を得意としているのか、それとも苦手にしているのかが分かる、ということです。

 それでは最初に選手のタイプ分類をしたいと思います。今回、選手のタイプ分類には機械学習の手法の一つである、クラスタリングと呼ばれる手法を使いました。クラスタリングとは、データが似ているか、似ていないかを基準にグルーピングしていく手法です。

 打者のクラスタリングを行う際には、まず打者の左右で分類し、その後に以下のデータを使用してタイプ分類を行いました。

 続いて、投手のクラスタリングは、打者同様に、まず左右で分類したのちに、投げ方をオーバースロー、スリークォーターに限定しました。その後に以下のデータを使用して、タイプ分類を行いました。

 打者、投手、それぞれクラスタリングして、タイプ分けしたものが、表5・6です。打者、投手それぞれ10個のグループに分けており、それぞれの大まかな特徴を記載しています。こちらのデータは、あくまで各選手の年度ごとの成績をもとに算出しているため、選手の対象の年度が変われば、所属するグループも変わる可能性があります。

 例えば、打者のグループ4は、長打力があり、フライや引っ張りの打球が多いのが特徴です。2020年の代表的な選手としては、山川穂高(西武)や山田哲人(ヤクルト)がいます。

 投手のグループ9は、直球と落ち球を中心としていて、球速が速く、三振やフライが多いのが特徴となります。2020年の代表的な選手としては、松井裕樹(楽天)や今永昇太(DeNA)がいます。

■タイプ別の対戦成績

 それでは、打者、投手のグループごとの対戦成績を集計していきます。今回はセイバーメトリクスの指標の一つである、wOBAという指標を使います。wOBAとは、1打席あたりにどれだけチームの得点増加に貢献したかを示す指標であり、打率のような指標よりも得点への貢献度をより適切に算出することができます。このwOBAをもとに、例えば打者0のグループが全投手と対戦した時のwOBAと、投手3のグループと対戦した時のwOBAを比較することで、相性の良さを評価していきます。

 表7はグループごとのwOBAを集計したものです。縦軸が打者のグループで、横軸が投手のグループとなっています。一番右の列は、その行の打者のグループの全投手に対してのwOBAを表しています。

 例えば、打者2のグループは、全投手に対してのwOBAは.333ですが、投手0のグループに対してのwOBAは.288と約0.05低くなっています。これに対して、打者9のグループは、通常のwOBAは.325ですが、投手0のグループに対しては.317と大きな差はありません。つまり、打者2のグループは、打者9のグループよりも、投手0のグループの投手を苦手にしている、ということになります。

 表8では、対戦する投手のグループによってwOBAがどう変化するかをより分かりやすくするために、通常時のwOBAとの変化率で表しました。

 これを見ると、投手8のグループに対して、打者3のグループは通常時よりも約14%成績が向上するのに対して、打者7のグループは約7%成績が低下します。このように、対戦する投手のグループによっては、相性の良い打者のグループと悪いグループで成績に大きく差が出ることが分かります。

 以上のことから、皆さんが思っていた以上に相性の影響は大きい、ということを分かっていただけたのではないでしょうか。また、表8のような表形式の形にまとめることによって、相性の良し悪しを短時間で確認することができます。

■相性の活用方法

 最後に、この相性をどのように活用していくか、というお話です。野球では、1試合の中で多くの選手交代が発生しますが、選手起用の判断にかけられる時間はあまり長くありません。そこで表8のようなタイプ別相性表をベンチに置いておくことで、相性の情報を短時間で確認することができ、選手起用に役立てることができます。さらに、直接の対戦がないような相手に対しても、このタイプ別相性であれば相性の良し悪しを判断することができます。

 また、競技現場に関わる人だけでなく、ファンの皆さんも活用することができます。海外ではファンタジーと呼ばれる予想ゲームが盛んで、それは毎日どの選手が活躍するかを予想し、予想した選手が実際に活躍すればポイントがもらえる、というようなゲームです。つまり、相手打者や相手投手との相性を把握しておくことによって、よりベストな選手を選択することができるようになります。

 今回の分析はまだまだ入口の段階で、タイプ分類の方法など改善の余地は多く残されています。将来的に投手のボールの変化量や、打者のスイング軌道など、さまざまなトラッキングデータを考慮すると、より本質的なタイプ分類、そして相性の分析ができると思います。

 プロ野球の打順の変更や、代打が起用された際に、相性の観点から首脳陣の采配の意図を想像することも面白いかもしれません。

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