レポート

アナリストレポート第12回
「八村、渡邊、ファジーカスがバスケ日本代表にもたらしたもの」

2019年08月27日 バスケットボール

バスケットボールアナリスト:柳鳥亮

 皆さんこんにちは。FIBAバスケットボールワールドカップ(以下、W杯)の開幕が目前に迫り、日本代表の活躍への期待が日に日に高まっています。

 今年の日本代表はかつてない豪華なメンバーが揃い、史上最強のドリームチームと謳われています。特にNBAドラフト1巡目指名という快挙を成し遂げた八村塁選手、NBAで15試合に出場し、日本人最多出場試合数の記録を塗り替えた渡邊雄太選手、Bリーグ初年度にMVPを獲得し、昨年日本国籍を取得したニック・ファジーカス選手の加入で、日本代表は大きな戦力アップに成功しました。

 今回のレポートでは、この3選手が加わったことで日本代表にどんな変化があったのかを、アジア予選のスタッツを紐解くことで明らかにしていきたいと思います。

 バスケットボールのスタッツについては、アナリストレポート 第5回の 「祝Bリーグ開幕!バスケの結果を彩るスタッツの楽しみ方!」でも紹介しています。よろしければこちらもあわせてご覧ください。

4連敗からの8連勝

 W杯出場を決めたアジア予選、日本は開幕から4連敗で苦しいスタートとなりましたが、5戦目のオーストラリア戦では八村選手、ファジーカス選手が加わり大金星。2次予選からは渡邊選手も加わり、オーストラリア戦から破竹の8連勝でW杯出場を決めました。

 3選手の加入前は4連敗、加入後は8連勝なので、チームに大きな影響があったことは間違いありませんが、具体的に何が良くなったのかを探るため、加入前の4試合と加入後の8試合のチームスタッツを分けて集計して両者を比較してみましょう。

攻守で劇的な改善

 まずは得点関連のスタッツを見てみます。

※ORTG:オフェンスレーティング、DRTG:ディフェンスレーティング、NRTG:ネットレーティング

 平均得失点が大幅に改善していることが分かります。下の3つの項目は馴染みのない方も多いかもしれませんが、ORTGは100回攻撃機会があった時にチームが何得点するかを示す指標、逆に相手に100回攻撃機会があった時に何失点するかを示す指標がDRTG、両者の差がNRTGです。アナリスト界ではこれらの指標を用いて攻守の質を評価することが多いですが、この数値からも攻守での劇的な改善が伺えます。8試合という少ないサンプルではありますが、NRTGで30近い数値を出すのは尋常ではありません。Bリーグ最下位チームが優勝チームに転じる程のインパクトです。

リバウンドを制するものは…

 次に注目したいのがリバウンド関連のスタッツです。

※ORB:オフェンスリバウンド数、DRB:ディフェンスリバウンド数、TRB:トータルリバウンド数(いずれも1試合平均)、ORB%:オフェンスリバウンド獲得率、DRB%:ディフェンスリバウンド獲得率、TRB%:トータルリバウンド獲得率

 リバウンドの獲得数を見ると加入後の日本代表はDRBが増えており、その分だけTRBが増えているように見えます。しかし、リバウンド機会に対してどの程度の割合でリバウンドを確保できたかを示す「獲得率」で見てみると、ORB%, DRB%, TRB%のいずれも数値が改善しています。

 後で触れますが、加入後の日本はシュートの成功率も大幅に向上しており、外れるシュートの数が減っています。ORBでは味方のシュートが外れた際にリバウンド機会が訪れるため、シュートが高確率で決まれば機会(分母)が減り、獲得数(分子)が同じでも、獲得率は上がります。つまり、加入後の日本代表はORB、DRB共に強くなったと言えます。

 ORB後のオフェンスは相手ディフェンスが崩れていることが多く、得点できる確率も高いため、ORB%の改善は得点力アップにつながります。また、DRB%の向上は相手のORB%の低下を意味しており、相手の得点力ダウンにつながります。特に加入前のDRB%:60.4%はかなり苦しい数字で、5回に2回は相手にORBを取られていたことになります。せっかく相手のシュートが外れても、半分近くORBを奪われる状況ではディフェンスが延々と続き、リズムに乗ることが難しかったはずです。TRB%も50.7%まで改善しており、3選手の加入をきっかけに、ようやく世界と互角にリバウンド争いができるようになりました。

リバウンドで取り戻した走るバスケ

 続いては速攻に関するスタッツです。

※FBP:ファストブレイクポイント(速攻からの得点)

 リバウンド力の向上は様々な効果を生みますが、その1つが速攻です。加入前後でのFBPを比べると、日本の速攻での得点、相手の速攻での得点共に1.5倍近く増減しています。実はリバウンドと速攻には関連性があります。速攻を出せる状況は大きく分けて2つあります。

① 相手シュートが外れ、DRBを獲得した直後
② 相手がターンオーバーでボールを失った直後

 前述の通りDRBが強くなった日本は①の機会が増え、速攻での得点増加につながったと言えます。また、ORBも強くなり、相対的に相手のDRB%を下げているため、相手の速攻機会も減らし、相手FBPも減っています。3名の加入でリバウンド力が改善したことが、こんなところにも好影響を及ぼしています。

圧倒したインサイドとアウトサイドへの波及効果

 続いてはペイント内得点についてです。ペイント内得点とは、ゴール付近の色が変わっている四角いエリアから放ったシュートによる得点で、インサイドであげた得点を表します。

 見事にインサイドでの得失点が逆転しています。最初に見た加入前後での得失点の差の大部分は、このペイント内得失点の差によるものだということが分かります。日本の泣き所だったゴール下ですが、アジアレベルではストロングポイントと言えるレベルにまで改善しました。

 そして、インサイドの強化はアウトサイドへの波及効果を生みます。

※2P%:2P成功率、3P%:3P成功率。カッコ内の数値は「成功数/試投数」

 日本のペイント内得点が増えたことから伺える通り、2P%が大幅に上がり、同時に3P%も上がりました。日本のインサイドが脅威となったことで、相手ディフェンスはゴール下に人を割く必要性が生じます。するとアウトサイドのディフェンスが手薄になり、ノーマークで3Pを打てるチャンスが増え、3P%が上がる、という好循環が起こりました。シュート試投数では2Pが増え、3Pが減るという結果となっており、強みとなったインサイドを中心に攻めつつも、アウトサイドも有効活用して高確率で決めていたことが分かります。

 一方、相手チームは日本と逆に2P%、3P%共に下がり、試投数は2Pが減り、3Pが増えています。日本のインサイドディフェンスが強化され、インサイドで容易に得点が取れなくなったことで、シュートがアウトサイドに寄ったものの、インサイドが崩せていない状態で打つ3Pではノーマークも生まれにくく、確率も落ちるという悪循環です。日本のインサイド強化が両チームのアウトサイドにも波及効果を生みました。

まとめ

 いかがだったでしょうか。八村、渡邊、ファジーカス選手の加入により、リバウンド・ペイント内得点というインサイドでの強さが表れるスタッツが目に見えて改善。インサイドの強化が速攻、3Pといった面にも効果を及ぼし、攻守共に劇的に向上、という一連の流れが見えてきました。

 アジアトップクラスのチームへと変貌した日本。同グループとなった強豪アメリカ、チェコ、トルコといった国々にも日本のバスケが通用するのか。日本代表の活躍に期待しましょう。

日本のW杯試合日程(日本時間)
9/1(日)17:30 日本 vs. トルコ
9/3(火)17:30 日本 vs. チェコ
9/5(木)21:30 日本 vs. アメリカ

※参考 FIBA.basketball

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